第63話:従属接続詞than節の省略とnexus法則

 

「課題文」

Ambassadors from EU member states have agreed in principle to seize windfall profits from frozen Russian assets to finance arms supplies to Kyiv.

 

In the wake of Russia’s invasion of Ukraine in 2022, EU countries froze hundreds of billions of euros worth of assets. If the decision is approved at a gathering of EU finance ministers next Tuesday, the interest – worth up to €3bn (£2.5bn) per year – will be used to buy weapons for Ukraine.

 

The European Commission chief, Ursula von der Leyen, said: “There could be no stronger symbol and no greater use for that money than to make Ukraine and all of Europe a safer place to live.”

         音声解説はこちらからどうぞ

「訳例」

EU連合の各国大使は、ウクライナへの武器供与の資金に充てるためロシアの凍結資産から生じた棚ぼた利益を没収することに原則合意した。

 

2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、EU加盟国は、数千億ユーロ相当のロシア資産を凍結した。来週火曜日、EU加盟国の財務相の会合でこの決定が承認されれば、最大で年間30億ユーロ(25億ポンド)に相当する利息がウクライナの武器購入に使われることになる。

 

EU連合の委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンは、「その資金が、ウクライナと全欧州を安全な場所にすることほど強力な象徴となり、しかも最良の利用法となるものはない。」と述べた。

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一、分析法①(概説)

 

今回の解説は、第3段落の’ There could be no stronger symbol and no greater use for that money than to make Ukraine and all of Europe a safer place to live. ‘です。

 

この解説のポイントは、「従属接続詞than節の省略とnexus法則」です。

           

前半の解説では、この課題における「従属接続詞than節の省略とnexus法則」について構造的視点から取り上げ、そして後半の解説では、その訳出法について取り上げます。   

 

        □ There is no 原級+er ~ than ~ について:

        ⇒ 1) S+V than(S+Vの省略)to make ~

             ⇒ 2) there is strong+N1 and great+N2 (S+Vの省略部分)

 

        *参考例:nothing is so adj(原級) as+X(最上級の表現法)

    

            □ strong and great for that money to make ~について:

        ⇒ 1) strong and great to make ~ (adj+to-infの副詞的用法)

             ⇒ 2) for that money to make ~ (for~toのnexus法則)       

 

上の構造式は、従属接続詞thanの一つの構造的機能である「前節の省略」を表したものであり、下の構造式は、その結果生じた「to make ~」の不定詞の構造的機能に対する影響です。

 

要するに、このthere be構文による比較級を用いた最上級の表現法を構造論的に見ると、そのカギを握っているのが従属接続詞thanの一つの構造的機能である「省略表現」です。

 

それによって、上の構造式(2)と下の構造式(1)が示すように、to-infの構造的機能が前節の形容詞strongとgreatに接続した「副詞的用法」であることが分かります。

 

さらに、下の構造式(2)が示すように、to-infとfor that money語句との間に意味上の主語と述語という「主述関係(nexus法則)」が成立していることが分かるのです。

 

ということは、ほとんどの答案に間違いが生じていたのですが、この「for-phr(for語句)」の捉え方が構造論・機能論の視点から理解できていなかったということになります。要するに、単なる語句として学校文法のように意味論的に捉えたために、誤訳を生んだということです。

 

最優秀答案は、その点での「思考的障壁」をクリアしていることが高く評価できるのです。これは、我々日本人にとって実に困難な「文化的障壁」なのですね。

 

詳細は、「実践から学ぶ英語翻訳法(再改定版)」、「 The Train Theoryを学ぼう(初版)」をご覧ください。後者は、2024年中に出版予定です。

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二、分析②(理論) 

この問題は、講評の中でも取り上げたように、日本人の思考法の決定的に欠けた部分であり、これについて知ることはもとより、心底知ったつもりでも不完全状態に終わるという超難問なのです。要するに、アジア文化そのものの本質に関わるからですね。

 

そういう私が不完全なのですから・・・。

 

ですから、「省略とその影響」について表現法を構造論・機能論的に捉えることは、省略されないでも不十分にしか捉えられないのに、省略されたらなおさら理解が難しくなるのは言うまでもありません。

 

そこで、構造論・機能論の中心的働きをするのが「動詞ないしは動詞の変化形」であることを常に認識してください。この「動詞ないしは動詞の変化形」が欧米言語の構造的柱なのです。つまり、動詞あるいは動詞の変化形が存在すると必ず(100%)それに対する「主語(subject)」が存在する(nexus法則)ということです。

 

この捉え方が、アジア言語と欧米言語の捉え方の違いであり、欧米言語への入り口なのです。

 

つまり、「for that money」語句は「to make ~」語句に対して、「主語(subject)」の働きをしていることになり、そこに「主述関係(nexus法則)」が成立することになります。ですから、この前置詞for語句は構造的・機能的に見て直後のto-infの主語を示す働きをしている、ある意味でそのための「挿入語句」ということになります。

 

よって、一般的に考えられる本動詞beに接続する副詞語句ではないということです。

 

そうであれば、直後のto-inf(to make ~)は直前のどの語ないしは語句に接続しているのかということになります。結論は、上記の構造式(1)が示すように直前の形容詞strongとgreatに接続する「副詞的用法」ということになります。

 

以上から、訳出法において直訳すると、「その金は、ウクライナと全欧州を安全な場所にするのに強力で最善の方法である」ということになります。これをベースにして、さらに最上級の表現が加わったということです。