「課題文」
Since the first American shipments of sophisticated weapons to Ukraine, President Biden has never wavered on one prohibition: President Volodymyr Zelensky had to agree to never fire them into Russian territory, insisting that would violate Mr. Biden’s mandate to “avoid World War III.”

But the consensus around that policy is fraying. Propelled by the State Department, there is now a vigorous debate inside the administration over relaxing the ban to allow the Ukrainians to hit missile and artillery launch sites just over the border in Russia — targets that Mr. Zelensky says have enabled Moscow’s recent territorial gains.

The proposal, pressed by Secretary of State Antony J. Blinken after a sobering visit to Kyiv last week, is still in the formative stages, and it is not clear how many of his colleagues among Mr. Biden’s inner circle have signed on. It has not yet been formally presented to the president, who has traditionally been the most cautious, officials said.

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「訳例」
米国が高性能兵器を初めてウクライナに提供して以降、バイデン大統領は一つの禁止事項について決してブレることはなかった。具体的に言うと、ボロジミール・ゼレンスキー大統領は、それらの高性能兵器をロシアの領土内に打ち込めば「第三次世界大戦を回避する」というバイデン大統領からの付託を破ることになると言って、同意せざるを得なかった。

しかし、その方針を巡るコンセンサスは綻びが出始めている。国務省に押されて、バイデン政権内では現在、その禁止事項を緩和してウクライナ軍がロシア国境を越えたすぐ近くのミサイル及び大砲の発射基地を攻撃できるかどうかの活発な議論が行われている。その攻撃のターゲットとは、ゼレンスキー大統領が述べるようにロシアが最近ウクライナの領土を獲得することができた幾つかの発射基地のことだ。

この提案は、アントニーJ・ブリンケン国務長官が先週キーウへの電撃訪問の後に強調したものだが、まだ形成段階の議論であり、バイデン大統領の側近のうちの何人が賛同したかは明らかではない。政府高官によると、大統領にはまだ正式に提示されていない、というのは大統領はこれまでも伝統的に最も慎重な存在であったからだ。

一、分析①(概説)
第1段落: President Volodymyr Zelensky had to agree to never fire them into Russian territory, insisting that would violate Mr. Biden’s mandate to “avoid World War III.”

□ Zelensky had to agree to never fire~, insisting that would
violate~
⇒ S1+V1, insisting (that) S2+V2 (分詞構文の付帯状況)

□ S1+V1, Vt-ing that S2+V2
⇒ S1+V1, and Vt+that S2+V2(分詞構文の等位接続詞の省略)

今回のテーマは、「文中の分詞構文による付帯状況」についてです。

前半では今回の課題を巡るポイントを構造的に(構造式・展開式で)示し、そして後半では、その構造式・展開式の捉え方及び訳出法を明らかにします。

上の構造式は今回の課題文の「分詞構文の付帯状況」を示しているのですが、下の構造式は上の構造式と同一であるにもかかわらず、「分詞構文の等位接続詞の省略」となっているのです。

その違いの根拠は何か?ということです。

この問題はすでに取り上げているのですが、根本的には英文の基本構造を形成する法則、即ち「nexus法則」に関わる問題なのです。

つまり、一文(sentence)に「本動詞」と「動詞の変化形(現在分詞)」がある場合、いずれの動詞に対しても必ず「主語」が存在しなければならないというのが「nexus法則」なのです。

ということは、この構造式から2つの動詞に対する主語は「S1」しかありません。ということは、これら2つの動詞は「主語S1」との間にどのような関係があるかということになります。その関係は、2つの動詞の構造的機能ではなく、「意味内容の関係」(意味論)を見ることによって区別することができるのです。

そこで、上の構造式の現在分詞は、本動詞V1の「状況や背景」を表現しているものであり、下の構造式の現在分詞は、動詞V1との関係で「手段―結果」あるいは「行為の順序」を表現しているのが一般的です。

このことから、2つの動詞の間に「効力関係」が生まれ、「付帯状況」の場合には本動詞との間に「主従関係」が生まれ、そして「等位接続詞の省略」の場合には本動詞との間に「等位関係」が生まれることになるのです。

その結果、下記の解説で述べるように両者の「訳出法」は異なるのです。

二、分析②(理論) 
「文中の分詞構文形態の付帯状況」については何度か取り上げていますが、どうも理解が難しいようです。この問題の理論的な深堀は、執筆中の拙著「英文構造式考」に譲りますが、そもそも理解が難しいという理由は何か?という教育的な側面から説明しましょう。

この問題は、英文の基本的構造を形成する「動詞(の変化形)」に関することであるから、言うまでもなく「nexus法則」が適用され、同時にその法則に従って英文構造が動詞の後方に展開される「後置用法(後付方式)と構造物間の効力関係」に関わる問題でもあるということです。

このような、先に「主要構造物」があり、そしてその後に「付加的構造物(場合によっては、さらに主要構造物が続く)」が来るという表現法は、原則的には日本語の「前置用法(先付方式)」とは構造的に見ても根本的に真逆であるということです。

その後方に展開された構造物を如何にして真逆構造の日本語へ変換するか?という問題なのです。そのための鍵となる理論が、上記した「nexus法則と構造物間の効力関係」なのです。

つまり、文中にある「分詞構文」は「動詞の変化形」であるから、先ずは「nexus法則」を適用しなければなりません。その主語は何か?ということです。それが文頭の主語であれば、その主語は2つの動詞、即ち本動詞と現在分詞形の「動詞の原形」との間にnexus法則が適用されているのです。

その場合に、後方の「動詞の原形」が前方の本動詞との間に「対等関係にあるか、それとも主従関係にあるかを「意味論的」に決定する。これが上記した「構造物間の効力関係」の問題なのです。

上記の「解説コーナー」で述べた「状況や背景」と「手段―結果ないしは行為の順序」は、このことなのです。「状況や背景」の関係であれば、両者間に「主従関係」が生まれるので、仮に英文構造では「後置用法(後付方式)」であっても、日本語では「前置用法(先付方式)」によって処理しなければなりません(訳し上げる)。

しかし、「手段―結果ないしは行為の順序」であれば、両者の間に「対等関係」がうまれるので、英文構成の流れに従って処理する(左から右方向へ訳し下げる)ことができるのです。

この視点に立って、模範訳例で確認してください。