「課題文」
The president of the European Commission, Ursula von der Leyen, and other top European Union officials met with Xi Jinping, China’s top leader, in Beijing on Thursday for a high-stakes summit, complete with nods to the 50-year anniversary of their diplomatic ties.
Both sides came with long lists of grievances over trade. The Europeans want an end to the flood of Chinese exports that they insist is unfairly bolstered by government financial support. The Chinese angrily deny the allegations and want the European Union to lift tariffs and embrace trade with China.
Neither European Union leaders nor Chinese officials said they expected the summit to resolve their many differences, which also include an intense disagreement over China’s support for Russia and its war in Ukraine.
「訳例」
欧州委員会の代表であるウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と同委員会幹部らは木曜、北京で中国の最高指導者習近平氏と極めて重要な会談をEUと中国の外交関係樹立50周年を儀礼的に祝う形で行った。
両者は共に、貿易をめぐる積み重なる不満材料を抱えて会談に臨んだ。欧州側の主張は、中国政府による財政支援によって不当に強化されている大量の輸入品に終止符を打つことを望んでおり、他方中国側はそれらの疑惑を突っぱね、欧州側が関税を撤廃し、中国との貿易を受け入れることを望んでいる。
欧州委員会の幹部からも、また中国側の高官からもこの首脳会議によってお互いの多くの意見の食い違いが解決されることになるという発言はなかった。というのは、それらの多くの意見の食い違いには、ロシアとロシアによるウクライナ侵攻に対する中国の支援をめぐる激しい対立が含まれてもいるからだ。
一、分析①(概説)
第1段落: The president of the European Commission, Ursula von der Leyen,^ met with Xi Jinping, China’s top leader,~ for a high-stakes summit, complete with nods to the 50-year anniversary of their diplomatic ties.
解説のポイントは、「形容詞語句の前置詞化(前置詞への転用)」です。
前半の解説では、この課題について構造的視点から取り上げ、そして後半の解説では、その訳出法について取り上げます。
———————————————–
□ 構造式(1):S+V, complete with+O(形容詞語句の前置詞化)
⇒展開式(1):S+V, prep+O (prepの構造的機能)
□ 類 例(1):S+V, like+O / Like+O, S+V
□ 類 例(2):S+V(be) like+O (S≒O / likeが繋合詞beと一体)
□ 構造式(2):S+V, (being) complete with+O(分詞構文の等位接続詞の省略)
⇒展開式(2):S+V1, (and V2(be))+C
——————————————————-
この「形容詞の前置詞化」という問題は、すでに拙著「実践から~」もしくはこのシリーズの中で取り上げていますが、この度は、類例を示して形容詞が前置詞化する場合の形態を構造式によって示しました。
形容詞ないし形容詞語句には、その構造的機能において文要素の補語になることのできる「叙述的用法」と、名詞に修飾できる「付加的用法」がありますが、この「付加的用法」が独立して「前置詞化(前置詞への転用)」したというのが今回のテーマです。
しかし、形容詞語句が完全なまでに「前置詞化」するためには、第一に前置詞が内包する直後に「目的語(名詞)」をとること、そして第二にその「目的語」を直前の名詞だけではなく、「動詞」や「形容詞」などに接続する機能を内包しなければなりません。
もっとも、「動詞」に接続する場合には、上記の構造式(1)と展開式(1)、そして類例(1)が示すように、直前に「カンマ記号」が必要です。
第一の条件である「直後に目的語(名詞)」をとることは必要不可欠ですが、第二の広範な接続関係には、元来の形容詞による制約があります。しかし、前置詞の中心的な構造的機能である「動詞への接続機能」は、前置詞化された形容詞の場合であっても必要です。これを示しているのが、上記の構造式(1)と2つの類例です。
展開式(1)は、構造式(1)の形容詞語句である’complete with’が一体となって前置詞化したことを示しています。
類例(1)は、前置詞化した形容詞が、「動詞に接続する形態であり、類例(2)は、繋合動詞(連結動詞)と一体となった形態で、その場合の前置詞likeは、「副詞化」したものと捉えることができます。
二、分析②(理論)
上記の構造式(2)とその展開式(2)を構造式(1)と比較して、その区別をどのような基準で行うのかという問題がありますが、この点についてはすでに「でんしゃ理論」の「分詞構文の接続詞省略」の中で述べたように、等位接続詞の構造的機能によって前後の構成要素である2つの動詞A・B間に「合理的な連結の理由」があるか否かによって決定されます。
一般的に、英文を左から右方向へ読み下せば、2つの動詞相互の関係は判明できます。今回の課題の表現法は、その意味で構造式(2)には該当しません。
そこで、構造式(1)の訳出ですが、前置詞化した形容詞語句の直前に「カンマ記号」があることに注目しなければなりません。前段の解説で述べたように、前置詞の機能の中で最も重要な機能が抱えている目的語を「動詞」に接続させる働きです。それを明確に示しているのが展開式(1)です。その具体的な訳出は、「模範訳例」で確認してください。
類例(1)において「形容詞の前置詞化」の典型的な具体例を示しておきました。見ての通り、この前置詞語句は付加的構造物として文頭に出ることもあるのです。
いずれにしても、「形容詞の前置詞化」によって形容詞本来の構造的機能を失うわけではなく、形容詞と前置詞の二重の構造的機能を持つことになるのです。もちろん、上記したように形容詞の機能を持つ場合には直前に「カンマ記号」はつけません。

