「課題文」
Vladimir Putin has demolished his holiday villa by the Black Sea after he stopped visiting the area out of fear for his life relating to strikes from Ukraine, a Russian opposition website has claimed.
The site of his villa near Sochi has become a regular spot for Ukrainian drone attacks – something which Putin “fears”, according to Proekt.
Putin last visited his villa in Sochi seven months ago, a source “familiar with Putin” told the website – which is run by Russian journalists living in exile.
“He even broke a longstanding tradition of coming to Sochi to celebrate Alina’s birthday in May,” the source added, referring to Alina Kabaeva, Putin’s secret lover with whom he has two children.
「訳例」
ウラジミル・プーチンは、ウクライナからの攻撃による命の恐れから黒海沿岸にある別荘地への訪問を止め、その後その別荘を解体したと、ロシアの独立系ウェブサイトが述べた。
同ウェブサイトのプロエクトによると、ソチ近郊の彼の別荘がある地域は、ウクライナによるドローン攻撃の標的の一つとなっており、それがプーチンを「震え上がらせる」元になっている。
プーチンが最後にソチのその別荘を訪れたのは7ヶ月前だと、「プーチンに近い」ある消息筋が同ウェブサイトに語った。そのウェブサイトは、亡命中のロシア人ジャーナリスト複数名によって運営されている。
そのある消息筋は、さらにプーチンの秘密の愛人であり、プーチンとの間に2人の子供がいるアリーナ・カバエワに触れながら、「彼は、5月のアリーナの誕生日を祝うためにソチにやって来るという長年の習慣までも破った」と、付け加えた。
一、分析法①(概説)
今回の解説は、第1段落の ‘The site of his villa near Sochi has become a regular spot for Ukrainian drone attacks – something which Putin “fears”, according to Proekt.’
そして、
第2段落の ‘Putin last visited his villa in Sochi seven months ago, a source “familiar with Putin” told the website – which is run by Russian journalists living in exile。’です。
この解説のポイントは、「emダッシュ記号と訳出法」です。
前半の解説では、この課題における「emダッシュ記号と訳出法」について、構造的視点から取り上げ、そして後半の解説では、その訳出法について取り上げます。
□ The site of his villa near Sochi has become a regular spot for Ukrainian
drone attacks – something which Putin “fears”,~
(構造式)The site of his villa~ has become a regular spot for~ –
something which Putin “fears”, (emダッシュ記号の処理法)
⇒ S+V – something which-cl
⇒ S+V, (and it is) something which-cl(itは前文を指す)
□ Putin last visited his villa in Sochi seven months ago, a source“familiar
with Putin”told the website – which is run by Russian journalists~
(構造式)a source“familiar with Putin”told the website – which is
run by~ (emダッシュ記号の処理法)
⇒ S+V+O – which is run by~
⇒ S+V+O, (and it) is run by~(itは目的語Oを指す)
上記の2つの構造式は、「emダッシュ記号」の使用形態の違いを比較しました。上の構造式はダッシュ記号の直後に「名詞something」が配置されている場合であり、下の構造式は「関係詞節which-cl」が配置されている場合です。
ダッシュ記号以下のこの違いは、ダッシュ記号の機能を左右するものではないので、2つの構造式の展開式で示したような捉え方になります。
もっとも、下の構造式の展開部を見ると、あたかも「関係代名詞whichの継続的用法」のように映るのですが、関係代名詞の継続的用法の場合は、関係詞節と前節との間には「対等関係」があるのですが、emダッシュ記号による後節と前節の間には「主従関係」が発生することになります。
なぜなら、「翻訳コンテスト第243回(でんしゃ理論第10話)」で述べているように、ダッシュ記号の後記事項は、構造的に前節からある種の「独立」を図りつつ、同時に「前記事項の注記・追記・説明、そして筆者の見解」をさしはさむ用法だからです。
二、分析法②(原理)
emダッシュ記号の構造的機能については、上記のように後記事項は、構造的に前節からある種の「独立」をしていて(完全な独立ではない)、「前記事項の注記・追記・説明、そして筆者の見解」をさしはさむ用法であることから、前記事項と後記事項との間には次の関係があるということです。
(1)相互にある種の「独立」をしていることから、後記事項の表現法が仮に節形式の表現法でない場合であっても節(clause)形式のように扱う。上の構造式の展開式でいえば、名詞somethingの部分です。
そして、(2)2つの節の間の効力関係は、あくまでも前節に対しては付加的構造物であることから、効力的に見て「対等関係」ではなく「主従関係」として扱う。下の構造式の展開式でいえば、例え後記事項の直前に等位接続詞andが用いられていても、前記事項との間には「前記事項 > 後記事項」という効力関係が生じるということです。
この2点を訳出において日本語で実践することが非常に困難であることは、これらの英語の表現法が日本語の表現法には存在しないことから分かることです(日本語には長い歴史の中で基本的に記号は存在しない言語的背景がある)。
しかし、記号論における構造的機能から記号の意図を可能な限り日本語へ変換できるようにすることが、当然翻訳に求められているのです。
この記号のデリケートな構造的機能を構造式で正確に表すことは、上記のように不可能であるため、この構造的機能の意図を知り、それを訳出に生かすことが求められるということです。私の「模範訳例」で確認してください。