第58話:関係代名詞whatと間接疑問詞whatの類似点と相違点
「課題文」
The Russian government has announced the death of Alexei A. Navalny without offering many details. Here is what we know about Mr. Navalny’s fate and what happens next.
Cause of death: In announcing Mr. Navalny’s death, Russia’s prison service said that he felt suddenly unwell during a walk. The medical workers who had arrived to attend to him in an ambulance had “performed all the required resuscitation procedures,” without success.
A doctor working near Mr. Navalny’s prison above the Arctic Circle told the independent Russian news outlet Mediazona that the closest ambulance team is 35 kilometers, or 22 miles, from the prison. By the time it would have arrived, a patient in severe distress would already be dead, said the doctor, who spoke on condition of anonymity. “Who were they resuscitating?” he added.
「訳例」
ロシア政府は、アレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡について詳細の多くを明らかにすることなく発表した。我々がナワリヌイ氏の最期について知りえていること、そして次に起きることは以下の通りである。
死亡の原因について:
ナワリヌイ氏の死亡を発表するに際して、ロシアの刑務所当局は次のように語った。ナワリヌイ氏は散歩中に突然体調不良になった。彼を看病するために救急車で駆けつけた医療従事者は、「必要とするあらゆる蘇生措置を施した」けれども、回復しなかった。
ナワリヌイ氏が収監されていた北極圏にある刑務所の近くで働いている医師は、ロシアの独立系ニュースサイト、メディアゾーナに語ったところによると、最も近くにいる救急隊であってもその刑務所から35キロ、即ち22マイル離れている。重篤な患者であれば、救急隊が到着したと思われるときまでに、既に亡くなっているだろうと、その医者は匿名を条件に述べ、さらに「彼らは誰を蘇生していたというのか?」と付け加えた。
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一、分析①(概説)
第1段落:Here is what we know about Mr. Navalny’s fate and what happens next.
今回のテーマは、「関係代名詞whatと間接疑問詞whatの類似点と相違点」についてです。
前半では今回の課題を巡る「関係代名詞whatと間接疑問詞what」を構造的に示し、そして後半では、その訳出法を明らかにします。
~ what we know about Mr. Navalny’s fate and what we know about
(1) what we know about
⇒(1) the thing(s) which(O)+S+V (関係代名詞のwhat)
⇒(2) that S+V+what(O)(間接疑問詞のwhat)
(2) what happens next
⇒(1) the thing(s) which(S)+V(関係代名詞のwhat)
⇒(2) that what(S)+V(間接疑問詞のwhat)
上記の2つの短文を構造的に分析したのが、それぞれの2つの展開式(1)(2)です。
その2つの展開式から分かることは、関係代名詞whatと間接疑問詞whatの間には共通部分と異質な部分があることが分かります。
共通部分は、1つは後方に抱える節を前節の構成要素(構造物)に「繋ぐ(接続)」働きと、2つは後節の構造物の一部を構成しているはたらきであり、そして異質な部分はwhatそのものが関係代名詞の場合には the thing(s) whichに変化しますが、間接疑問詞の場合にはwhatが形を変えずにそのまま残るということです。
つまり、2つのwhatの内的な構造物を眺めると大きく異なっているけれども、表面的に眺めるとその内容物を見ることができないために、違いの差がつかめないのです。
しかし、両者の違いが判明できなければ、当然訳出に当たってその違いを表現することができません。さて、その判定基準は一体なんであるか、そしてその訳出はどうなるかについて、後半の解説の中で明らかにしましょう。
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二、分析②(理論)
つまり、what節を表面的に見ただけではwhatが果たして「関係代名詞」なのか、それとも「間接疑問詞」なのかの判別ができないということは、接続語でもあるwhatの構造的機能によって相手方の被接続語をwhatを視点として特定することはできないということになります。
要するに、2つの構造物を繋ぐ場合、例えば「A – B」においてAとBが繋がるかどうかは後方の構造物Bの構造的機能だけではなく、前方の構造物Aの構造的機能にって決定されるということです。
従って、今回の課題文の場合、what節は前方の主節である「there be構文(here be構文)」との間にどのような関係が成り立つのか?という視点が判断基準になるのです。
「there be構文(here be構文)」は導入表現の一つであり、主語を強調する役割を果たしています。ということは、上記の2つの短文の展開式(2)を見れば分かるように、間接疑問詞whatが内包する構造物の一つは「従属接続詞that」であるために、一般的に主語にはなりえないことが分かります(‘一般的に’と言ったのは、that節が名詞節として主語になる確率は、it~that-clの場合を除いては非常に低いということです)。
一方の関係代名詞whatが内包する構造物の一つは「先行詞the thing(s)」であることから「there be構文(here be構文)」の主語になりうるわけです。
この課題文では、2つのwhat節を等位接続詞andで接続しているために、2つの構造物(構成要素)の間には「形式と性質の同一性」が成り立つために、2つのwhatは共に「関係代名詞」ということになります。
従って、訳出において「疑問詞(何?)」という表現を用いることはできないということです。